WMSの6のメリット|人手不足・情報管理に悩む現場は導入がお勧め
「WMSにはどのようなメリットがあるのか?」
「自社にとって本当に導入のメリットがあるのか?」
倉庫管理に課題を抱えており、現場の状況を改善するためにWMSの導入を検討している企業の中には、このような疑問をお持ちの場合も多いのではないでしょうか。
結論から申し上げると、WMSの主なメリットは以下の6つです。
WMSを導入する6つのメリット | |
1.人為的ミスを削減できる 入荷検品ミス・ピッキングミス・送付先住所の記載ミスなどを防止・削減 |
|
2.作業を効率化できる 入出荷検品・棚入れ・ピッキング・ラベル出力・棚卸し・商品の運搬など一部の業務を自動化 |
|
3.業務が標準化され属人化を解消できる ハンディターミナルを軸とした明確なマニュアルが確立され、新人スタッフからベテランスタッフまで一定の水準で作業ができる |
|
4.倉庫の保管効率が上がる フリーロケーションでの保管による省スペース化など |
|
5.在庫状況がリアルタイムで把握できる 欠品や過剰在庫などのトラブルを防止 |
|
6.さまざまな外部システム・機器と情報連携できる WCS・WES・TMS・マテハン・ロボット・AIなど、倉庫内のあらゆる情報を繋ぐ拠点になる |
WMSには導入にコストがかかるなどのデメリットも存在しますが、総合的にはデメリットよりもメリットの方が圧倒的に多く、一部の例外を除いた多くの物流現場にメリットがあると言えます。
特に以下のような悩みを抱える企業の場合は、WMSの導入がお勧めです。
WMSの導入がお勧めな企業の特徴 |
・入出荷件数が多く業務が追いついていない ・人件費がかさんで赤字続きの現状をどうにかしたい ・顧客からのクレーム・取引先とのトラブルを無くしたい ・残業続き・属人化などの問題を解消し、スタッフが快適に働ける現場を作りたい ・マテハン・物流ロボット・AI等の先進技術を導入したい |
本記事ではWMSのメリットを知りたい企業に向けて、
・WMSを導入する6つのメリット
・WMSを導入する3つのデメリット
・WMS導入のメリットを感じやすい企業・感じにくい企業の特徴
といった情報を、どこよりもわかりやすく具体的に解説します。
記事の後半では、多くの物流担当者様が抱いている「WMSを導入したら現場はどう変わるのか?」という疑問について、実際の導入事例を用いて解説します。
WMSのメリットについて深く理解できるだけではなく、導入するかどうかの判断もできるようになる記事ですので、ぜひ最後までご覧ください。
【記事監修】園田真之介
Rally Growth株式会社 代表取締役社長。株式会社FrameworxでSEとしてキャリアを形成後、株式会社BayCurrent Consultingを経て現職。専門は物流・ロジスティクス×IT領域。過去に大手アパレルの物流・倉庫最適化や大手自動車メーカーの物流システム刷新の案件をコンサルタントとして多数経験。2021年グロービス経営大学院卒(MBA)
Table of Contents
1.WMSを導入する6つのメリット
WMSを導入する代表的なメリットは、次の6つです。
WMSを導入する6つのメリット |
・人為的ミスを削減できる ・作業を効率化できる ・業務が標準化され属人化を解消できる ・倉庫の保管効率が上がる ・在庫状況がリアルタイムで把握できる ・さまざまな外部システム・機器と情報連携できる |
なぜこれらのメリットがWMS導入によって得られるのか、現場にどのような変化をもたらすのか、1つずつ詳しく解説します。
1-1.人為的ミスを削減できる
WMSを導入するメリット、1つめは「人為的ミスを削減できる」ことです。
人の目・人の手による検品やピッキングは、どれだけ慎重に作業してもうっかりミスが生じてしまうものですが、WMSの導入で業務の一部を自動化すれば、人為的ミス発生の可能性を減らすことができます。
WMSで自動化できる作業にはどのようなものがあるか、どのようにして人的ミスの削減に繋がるのか、いくつか具体例を見てみましょう。
WMSの導入によって人為的ミスを削減できるケース(一例) | |
例1.入荷検品ミスの防止 | |
【WMS導入前】 紙で出力された入荷指示書と商品を担当者が目視でチェックするため、入荷商品登録のミスが発生しやすい ↓ 【WMS導入後】 ハンディターミナルでスキャンすればシステム内に自動で情報が登録されるため、入荷登録のミスを大きく低減できる |
|
例2.ピッキングミスの防止 | |
【WMS導入前】 紙で出力された出荷指示書を見ながら、品番と数量を確認して人間がピッキングするため、ピッキングミスが発生しやすい ↓ 【WMS導入後】 商品に貼り付けられたバーコードをハンディターミナルでスキャンするだけで、システムに登録された出荷情報と整合性が確認できるため、誤出荷などのミスを低減できる |
|
例3.送付先住所の記載ミスの防止 | |
【WMS導入前】 エクセルなどで送り状を作成するため、送付先住所の記載を誤るケースがある ↓ 【WMS導入後】 WMSは出荷指示書をラベル化して出力できる機能があり、送付先住所を改めて手入力する必要がないため、記載ミスを低減できる |
このように、さまざまな業務を自動化させることによって、ミスの発生しづらい環境が整備できます。
倉庫作業の人為的ミスが少なくなれば、
・顧客満足度・取引先との信頼度が上がる
・従業員のモチベーション・働きやすさが向上する
・ミスによって追加で発生していた業務をカットできる(クレーム対応・再出荷など)
など現場にさまざまな良い作用をもたらすため、これはWMS導入の大きなメリットと言えるでしょう。
1-2.作業を効率化できる
作業を効率化できるというのも、WMSを導入する大きなメリットです。
WMSを導入すると、ハンディターミナルやバーコードなどを使って倉庫内の物の流れがデータ管理されるため、これまで人の手・人の目で行っていた業務の一部が自動化されます。
「自動化できる業務はWMSに頼る・人の手でしか行えない業務は人間がする」といった役割分担ができるようになることで、倉庫内の作業効率が上がります。
具体的には、以下のような作業の効率化が可能です。
WMSの導入によって効率化できる倉庫作業(一例) | |
入荷検品・出荷検品 | |
【WMS導入前】 紙で出力された入荷指示書と商品を見比べながら担当者が目視でチェック・記入するため、整合性確認に時間がかかる ↓ 【WMS導入後】 ハンディターミナルでのスキャンで検品作業を行えるため、数え間違いがないか・指示書の内容と異なる商品が入出荷されていないかといった整合性確認に要する時間を大きく削減できる |
|
棚入れ | |
【WMS導入前】 入荷検品が終わった商品の棚入れを行う際、ロケーションを紙やエクセルで管理しているため、入力(記入)作業に時間がかかる ↓ 【WMS導入後】 「ロケーション管理」と呼ばれる機能を使えば、以下の作業をするだけで「どこに何が格納されているか」の情報を登録できる ・商品を格納する棚に、エリアごとにラベルを貼り付ける ・商品のバーコード(QRコード)を読み取る ・棚のバーコード(QRコード)を読み取る →ロケーション管理にかかる作業時間を大幅に削減できる |
|
ピッキング | |
【WMS導入前】 紙で出力した出荷指示書をもとに、品番や数量を確認して人間がピッキングするため、整合性確認に時間がかかる ↓ 【WMS導入後】 商品のロケーションがシステム内で管理されているため、 ・作業動線に沿ったピッキングリストの作成 ・その日の荷量ごとにピッキング方法を切り替える(出荷数が多い日はトータルピッキング/少ない日はシングルピッキングなど) といった「現場に合わせて最適化されたピッキング」が半自動でできるようになり、作業時間が短縮される |
|
帳票・ラベル出力 | |
【WMS導入前】 ・納品書 ・梱包明細書 ・送り状 ・荷札 ・値札 などを作成する際、エクセルや個別の出力システムで作成・出力しなければならず、時間と手間がかかる(送り状は手書きするケースも) ↓ 【WMS導入後】 WMSで管理してある情報をそのまま帳票・ラベルとして出力できる →他のシステムやツールを経由させる必要がないため、作業時間を短縮できる |
|
棚卸し | |
【WMS導入前】 棚卸しをする際、担当者が倉庫に行って各場所の商品の数や商品名を1つ1つ確認しなければならず、整合性確認に多くの時間を要する ※忙しい現場の場合、作業時間を設けられず頻繁に循環棚卸が実施できない ↓ 【WMS導入後】 ハンディターミナルで在庫を全てスキャンしてくるだけで整合性確認が終わるため、作業にかかる時間や負担が大幅に削減できる |
|
入出荷時の商品の運搬 | |
【WMS導入前】 ・商品は固定倉庫で保管 ・フォークリフトで運搬 といった人の手に依存するオペレーションで運用している倉庫の場合、人件費がかさむうえに、入出荷量が増加すると人手不足に陥り業務が回らなくなるなどのリスクもある ↓ 【WMS導入後】 自動搬送ロボットや自動倉庫を導入してWMSと連携させることで、これまで人の手で行っていた運搬作業が自動化され、作業効率が大幅にアップする ※先進技術を取り入れた物流ロボット・マテハンを現場で稼働させるためには、WMSの導入が必須 |
このように、WMSは倉庫でのさまざまな作業の効率化できるため、
・スタッフの作業負担・労働時間が減る
・将来的には人件費削減にも繋がる
といった効果が期待できます。
1-3.業務が標準化され属人化を解消できる
WMSを導入するメリット、3つめは「業務が標準化され属人化を解消できる」です。
ハンディターミナルの操作はマニュアル化しやすく、新人スタッフでも一定の水準で作業ができるようになります。
導入したWMSの操作マニュアルを元に明確なルールを設け、属人化が解消されれば、
・ベテラン社員の経験と知識に頼りきりの状況を改善できる
・明確なルールがあることで従業員の働きやすさに繋がる
・未経験の人材も採用しやすくなり、求人の幅が広がる
といったさまざまな良い作用をもたらします。
WMSの導入によって属人化が解消されると現場はどう変わるのか、もう少し具体的に見てみましょう。
WMSの導入によって属人化が解消されるケース(一例) | |
例1.ピッキング業務が標準化され、日々の業務が安定するケース | |
【WMS導入前】 入荷後の商品は細かくロケーション管理しておらず、ベテランスタッフの記憶を頼りに在庫を探していたため、そのスタッフが欠勤の日は作業効率が著しく落ちてしまう ↓ 【WMS導入後】 システムでロケーション管理をしておけば、格納場所の情報を呼び出すだけで誰でも目当ての商品が探せるようになり、ベテランスタッフ不在でもピッキングをスピーディーに行えるようになった |
|
例2.明確なマニュアルが確立され、配置・採用の幅が広がるケース | |
【WMS導入前】 倉庫作業の明確なマニュアルがなく、各ポジションのリーダーがこれまでの経験を元にその場その場で指示を出す。スタッフの持ち場は基本的に固定で動かせず、繁忙期は人手不足に陥りやすい ↓ 【WMS導入後】 ハンディターミナルの操作方法はマニュアル化されているため、感覚や経験に頼る必要がなく、新人スタッフでもマニュアルを見ながら正しく操作してもらえれば十分な戦力になる。これにより以下のような変化が生まれ、臨機応変な配置・採用ができる ・アルバイト・パートの仕事の幅が広がる ・未経験からでも採用できる ・普段は違うポジションで働いているスタッフをヘルプで呼びやすい |
上の例のように、属人化によって作業のムラや人手不足といった問題が発生してしまう現場では、WMS導入は大きなメリットがあると言えるでしょう。
1-4.倉庫の保管効率が上がる
倉庫の保管効率が上がるというのも、WMSを導入するメリットです。
入荷した商品を倉庫に格納する際、ピッキング時の探しやすさを考慮して、商品を決まった場所に保管する「固定ロケーション」で格納するのが一般的です。
しかし、WMSを導入すれば商品の保管場所はデータで管理されるため、探しやすさを重視する必要がなくなります。
これにより、空いているスペースにどんどん商品を格納していく「フリーロケーション」での保管が可能になり、省スペース化しやすくなります。
倉庫の保管効率が上がることで倉庫にどのような変化がもたらされるのか、具体例を見てみましょう。
WMSの導入によって倉庫の保管効率が上がった例 | |
【WMS導入前】 普段は問題なく商品を保管できているが、繁忙期前に在庫を大量に入荷した時などは一時的に倉庫のスペースに余裕がなくなる。作業動線の通路にまで在庫が積み上がっている状態で、在庫を避けながら狭い通路を通らなければならないほどスペースを圧迫しており、業務に支障が出ていた ↓ 【WMS導入後】 WMSを導入しフリーロケーションで保管したところ、省スペース化に成功。大量の入荷があっても、すべての商品を問題なく格納できた。さらに、保管効率が上がったことで一度に受け入れられる在庫数が増え、小刻みに入荷していた在庫をまとめて入荷できるようになった |
このように、WMS導入によって保管効率が上がると狭いスペースでもより多くの商品を格納できるようになります。
・取り扱う商品数が多いEC事業者
・十分な広さの倉庫を用意できない倉庫業者
にとっては特に嬉しいメリットと言えます。
1-5.在庫状況がリアルタイムで把握できる
WMSを導入する5つめのメリットは、「在庫状況がリアルタイムで把握できる」です。
WMSは入荷した商品の情報をシステム内で登録・管理するため、入荷~出荷までの物の動きがリアルタイムで反映・可視化・共有でき、欠品や過剰在庫などのトラブル防止に繋がります。
在庫状況のリアルタイムな把握によって防止できるトラブル(一例) | |
例1.欠品によるトラブルの防止 | |
【WMS導入前】 基幹システムで在庫管理をしており、在庫数の修正・更新は入出荷や棚卸しのタイミングで手入力にて行っている現場の場合、システム在庫と現物在庫の数が一時的にずれることがある複数の取引先から立て続けに発注があり、システム在庫数の更新作業が間に合わず欠品の状態で注文を受けてしまった場合、クレームに繋がるなどのトラブルが発生する ↓ 【WMS導入後】 WMSではリアルタイムの実在庫数が常にシステムに反映されるため、在庫切れになった瞬間に新たな発注は受けられなくなり、欠品によるクレームやトラブルを防止できる |
|
例2.過剰在庫によるトラブルの防止 | |
【WMS導入前】 倉庫内の在庫数を正確に把握しておらず、毎月決まった数量を機械的に入荷し続けた場合、売れ行きの悪い商品が過剰在庫になる過剰在庫を抱えることで ・倉庫のスペースを圧迫する ・長期間保管しておくことで品質が劣化し販売できなくなる(倉庫業の場合は荷主との信用問題に関わる) 等のトラブルが発生する ↓ 【WMS導入後】 WMSではリアルタイムの実在庫数が常にシステムに反映されるため、「在庫数が一定の値を超えた商品はそれ以上入荷しない」等のルールを設ければ、過剰在庫を防止できる |
欠品や過剰在庫といった在庫管理をめぐるトラブルは、顧客や取引先の信頼を失うリスクと隣合わせです。
リアルタイムな在庫状況を把握して、欠品や過剰在庫のトラブルを防止できるのは、WMSの大きなメリットです。
1-6.さまざまな外部システム・機器と情報連携できる
WMSを導入する根本的なメリットとも言えるのが、さまざまな外部システム・機器と情報連携できることです。
これまで「ミスの削減」や「業務の効率化」といった実用的なメリットをご紹介してきましたが、WMSは、単に倉庫の情報を管理するだけのシステムではありません。
倉庫で稼働させているあらゆるもの(外部システムや機器)と連携し、倉庫のすべての情報を集約する「情報拠点」になることこそが、WMSの本質的な役割です。
上の図を見て分かるとおり、倉庫内のあらゆるシステムや機器を連携して稼働させるには、WMSというハブになる存在が不可欠です。
倉庫内の情報を一元管理し、きめ細やかで自由度の高い連携をするには、基幹システムやその他の古いシステムでは代替できません。
特に、倉庫業務の生産性と品質向上に劇的な変化をもたらす「マテハン・ロボット・AI」を稼働させるには、WMSの導入が極めて重要です。
マテハン・ロボット・AIとWMSの連携の重要性 | |
マテハン・ロボット | |
これまで人の手で行っていた入出荷・ピッキング・仕分けなどの作業が機械とテクノロジーによって代替され、大幅な省人可・省力化が実現する
【マテハン・ロボットの一例】 →これらの機器を稼働させるには、WMSで取得・蓄積した倉庫内のデータが必要 |
|
AI | |
WMSで取得・蓄積したデータを活用して、AIが現場の状況に合わせた最適な作業指示を出す (現場の状況に合わせた在庫の置き場所・人の配置・導線・作業プロセスなど) AIの活用により、現場の人間が頭を悩ませなくても、常に最適化された倉庫を保てる →AIが最適な作業指示を出すためには材料となるデータが必要であり、倉庫内のあらゆるデータを集約するWMSが必要 |
あなたの会社が現時点で基幹システムやその他の古いシステムをメインで使用しているのであれば、WMSの導入によって、これまではできなかった「自社にとって最適な物流オペレーション」を構築できる可能性があります。
2.WMSを導入する3つのデメリット
WMSの導入にはさまざまなメリットがありますが、一方で次のようなデメリットも存在します。
WMSを導入する3つのデメリット |
・導入に時間とお金がかかる ・自社に合ったWMSを選ぶのが難しい ・新たな業務が発生して手間が増えるケースもある |
WMSを導入するかどうかを決めるには、判断材料としてこれらのデメリットについても知っておく必要があります。
具体的にどのようなデメリットなのか、1つずつ詳しく見ていきましょう。
2-1.導入に時間とお金がかかる
WMSを導入する最大のネックとも言えるのが、「導入に時間とお金がかかる」という点です。
WMSには大きく分けて「SaaS」「パッケージ」「フルスクラッチ」の3つのタイプがあり、それぞれの導入にかかる費用と期間の目安は以下の表の通りです。
タイプ別・WNSの導入にかかる費用と期間(目安) | ||
タイプ | 導入費用 | 稼働させるまでにかかる期間 |
SaaS
ベンダーが提供するシステムを、月額を支払って利用するタイプ |
無料~50万円程度 (別途月額5~20万円程度のランニングコストがかかる) |
2~3カ月 |
パッケージ
システムのパッケージ版を購入し、自社のパソコンにダウンロードして利用するタイプ(カスタムできる) |
3,000~5,000万円 | 6カ月~1年以上 |
フルスクラッチ
自社専用のシステムを1から開発するタイプ |
1億円以上 (数億円かかるケースも) |
1年半以上 |
ミスの削減や作業の効率など様々なメリットがあるWMSですが、より多くのメリットを受け取るためには、お金や時間の初期投資が必要になります。
例えばシステムを1から開発するフルスクラッチのWMSを導入する場合、
「数億円もの費用・1年半もの歳月をかけて、得られるリターンはどれほどのものなのか」
「何年運用すれば導入にかけたコストを回収できるのか」
といった、長期的な費用対効果を考慮しなければなりません。
WMSの導入には大きな初期投資が必要であることを理解し、予算や規模感・WMSで達成したい自社の課題などを明確にしてから導入すると良いでしょう。
2-2.自社に合ったWMSを選ぶのが難しい
自社に合った製品を選ぶのが難しいというのも、WMS導入のデメリットの1つと言えます。
WMSにはさまざまな製品があり、
・導入費用
・料金体系
・搭載されている機能
・カスタマイズの自由度
・得意とする業種・業界
・対象規模
などの特徴は製品によって異なります。
WMSのメリットを享受するためには、数ある製品のサービス内容や特徴を比較して自社にとってベストな1つを選定しなければなりません。
もし自社のビジネス条件とマッチしない製品を選んでしまった場合、次のような失敗に陥ってしまうリスクがあります。
WMS選びのよくある失敗例 | |
・最小限の機能のみを搭載したWMSを選んで安く済んだが、かえって業務効率が悪化した →荷主からのサービスに応えられなくなり、結局従来のオペレーションに戻る ・コストが予算を上回る製品を選んでしまった →業務の効率化には成功したが、初期費用の赤字をいつまでも取り返せない ・扱いづらい(現場の業務とマッチしない)製品を選んでしまった →業務の標準化ができずカスタマイズ費用がかさんでコスト増 |
WMS選定の失敗を防ぐ方法として有効なのが、次のようなポイントを押さえた選び方です。
失敗しないWMSの選び方 | |
・自社の課題をリストアップし、その課題を解決してくれるWMSの機能を洗い出す ・予算やカスタマイズの自由度に合わせてWMSのタイプを選ぶ(SaaS・パッケージ・フルスクラッチ) ・必要な機能を備えたWMSをリストアップする ・対象規模・業種・業界がマッチしていないものは候補から外す ・操作性やセキュリティなど細かいポイントをチェックし候補を絞る |
※WMSの選び方についてより詳しく知りたい場合は、失敗しない選定方法を10のステップで解説した以下の記事をご覧ください。
>>「WMSの選び方はこれに従うだけ!失敗しない究極の10ステップ」
ただし、WMSの導入には一定の専門知識を要するため、社内の人間だけで選定するのは難しいケースも多いというのが実情です。
少しでも判断に迷う場合は、どのようなWMSを選べば良いか、事前に専門家へ相談してみることをお勧めします。
※詳しくは、企業の物流の悩みを解決する「物流ITコンサルティング」について解説した以下の記事を参考にしてください。
2-3.新たな業務が発生して手間が増えるケースもある
WMSを導入するうえで考慮しておきたいデメリット、3つめは「新たな業務が発生して手間が増えるケースもある」という点です。
WMSには「これまで人の手で行っていた業務の一部を短縮できる」というメリットがありますが、一方でそれを実現するためには商品情報をシステムに登録するなどの作業が必要になります。
一体どういうことか、次の例をご覧ください。
WMS導入によって短縮される業務・新たに発生する業務 | ||
短縮される業務 | ||
検品・ピッキング・棚卸しなどの工程における「整合性の確認作業」
→商品情報に紐づいたバーコードやQRコードのラベルを印刷し商品に貼り付け、ハンディターミナルで読み取ることで、目視による確認作業が短縮できる |
||
新たに発生する業務 | ||
倉庫内の商品情報をWMSに反映させる「データ作りの作業」→商品の情報をバーコードやQRコードで管理するためには、大元のデータが必要になる。倉庫内のすべての商品情報をデータ化し、システム内に登録して初めて倉庫管理の効率化が実現する |
従来の基幹システムとWMSが連携できる場合はデータ化がスムーズに完了することもありますが、今まで簡易的な古いシステムやアナログな手法で倉庫管理をしていた場合、倉庫内の情報を一からWMSに手動で入れなければならず、データ化に膨大な手間がかかる可能性もあります。
以上のことから、WMSを導入する際は、導入を本格的に検討しはじめた段階で
・稼働させるまでにどのくらいの工数がかかるのかを把握しておく
・導入するタイミングを閑散期に合わせる
といった点に注意しておくと良いでしょう。
3.WMSはデメリットを踏まえてもメリットの方が大きい
ここまでの内容を踏まえてお伝えできる本記事の結論は、「WMSはデメリットを踏まえてもメリットの方が大きい」ということです。
WMSの導入にはコストがかる・製品の選定が難しいといったデメリットもありますが、裏を返せば「製品の選定さえ間違えなければ、かけたコストを上回るリターンが期待できる」とも言えます。
特に、
・人為的ミスの多発
・作業の属人化
・人手不足
といった問題を解消できるため、倉庫業務に上記のいずれかの課題を抱えている企業であれば、WMSの導入に高い費用対効果を感じられることでしょう。
以上のことから、WMSはデメリットを踏まえてもメリットの方が大きく、WMSの導入は一部の例外を除いてほぼすべての物流現場にメリットがあると言えます。
4.WMS導入のメリットを感じやすい企業・感じにくい企業の特徴
ここからは、WMS導入のメリットを感じやすい企業・感じにくい企業の特徴についてお伝えします。
前章でもお伝えしたように、WMSの導入はほぼすべての物流現場にメリットがあると言えますが、中には導入しても余りメリットが感じられないという企業も存在します。
まずは以下の表をご覧いただき、あなたの会社がメリットを感じやすい企業・感じにくい企業のどちらに当てはまるのかをチェックしましょう。
メリットを感じやすい企業の特徴 | メリットを感じにくい企業の特徴 |
・入出荷件数が多く慢性的に人手が足りない ・作業工程が多くミスが起こりやすい ・商品の種類が多く管理が煩雑になりやすい ・作業員の人数が多い・入れ替わりが激しい ・スタッフによってスキル・知識の差が激しい |
・入出荷件数が少ない ・マスタ作成などのデータ準備に相当な時間を要する ・スタッフのITリテラシーに著しく不安を感じている |
なぜこのような特徴を持っているとメリットを感じやすい・感じにくいのか、詳しく解説します。
4-1.WMS導入のメリットを感じやすい企業の特徴
WMS導入のメリットを感じやすい企業の特徴は、次の5つです。
WMS導入のメリットを感じやすい企業の特徴 | |
・入出荷件数が多く慢性的に人手が足りない ・作業工程が多くミスが起こりやすい ・商品の種類が多く管理が煩雑になりやすい ・作業員の人数が多い・入れ替わりが激しい ・スタッフによってスキル・知識の差が激しい |
上に挙げた5つの特徴は、物流業務において企業が抱えやすい課題であり、同時にWMSの機能で解決できる課題でもあります。
WMSが解決できる物流現場の課題 | |
・入出荷件数が多く慢性的に人手が足りない
→WMSのメリット「作業の効率化」により、少ない人手で現場が回せるようになる ・作業工程が多くミスが起こりやすい →WMSで業務の一部を自動化させることにより、人為的ミスを削減できる ・商品の種類が多く管理が煩雑になりやすい →入荷時にWMSへ商品の細かい情報を登録しておけば、「何が」「どこに」「どれだけ」保管されているかを瞬時に把握できる ・作業員の人数が多い・入れ替わりが激しい →WMSで業務を標準化させることより、ポジションを固定しなくても一定の水準で作業できるようになる ・スタッフによってスキル・知識の差が激しい →WMSで業務を標準化させることより、ベテランスタッフに頼りきりなどの属人化が解消できる |
5つの特徴のうち、当てはまるものが多ければ多いほど、WMSの導入によって現場の状況が改善される可能性が高いと言えるでしょう。
4-2.WMS導入のメリットを感じにくい企業の特徴
続いて、WMS導入のメリットを感じにくい企業の特徴は、以下の3つです。
WMS導入のメリットを感じにくい企業の特徴 | |
・入出荷件数が少ない(週の入出荷が5~10件の小さなECなど) ・マスタ作成などのデータ準備に相当な時間を要する ・スタッフのITリテラシーに著しく不安を感じている(スタッフが全員年配など) |
小さなEC事業など、「メールで受けた1日数件の注文を紙に印刷し、倉庫から商品を用意して発送する」といった最小限のオペレーションで間に合っている物流現場の場合は、WMSを導入しても劇的な効果は実感できないかもしれません。
また、
・WMSを導入(他システムからのリプレイス)した際、データ化にどのくらいの時間と手間がかかるか
・スタッフがハンディターミナルを使いこなせるか
といった、導入後のことも考えておくのが重要です。
上に挙げた3つの特徴のうち当てはまるものが1つでもあった場合は、WMSの導入は一度保留にして、次の2ステップを実践すると良いでしょう。
【2STEP】WMS導入のメリットを感じにくい企業が取るべき行動 | |
【STEP1.まずはプロに相談】
物流ITコンサルティング会社に問い合せ、自社でWMSを導入した場合どのくらいの手間がかかるのか、手間を上回る効果があるのか、プロ視点の意見を聞く 【STEP2.導入してもメリットが少ないようならWMS以外の施策を探す】 人手不足やミスが多い場合:業務フローや作業動線を見直す |
5.WMSの導入で現場はどう変わる?成功事例3つ
最後は、WMSの導入で現場がどのように変わるのか、企業の成功事例を3つご紹介します。
ここまでの内容を読んで
「WMS導入の一般的なメリットについてはよくわかったが、自社にとって本当にメリットがあるのかはまだイメージできない」
と感じられた場合は、以下の事例を参考に、導入前後の変化を具体的にイメージしてみることをお勧めします。
事例1.自社開発システムからWMSへリプレイス |
|
【企業概要】
業種:運輸業 【WMS導入の背景】 自社開発のシステムを利用していたが、倉庫内の商品情報をバーコードではなく帳票で管理していたことから、目視でのチェック漏れによる出荷ミスが月3件程度発生していた。「出荷ミス防止」の課題を解決するべく、WMSへのリプレイスを決定。 【WMS導入の効果】 すべての商品をバーコードで管理・出荷作業をハンディターミナルで行うオペレーションに変更したところ、WMS導入後の出荷ミスは1件も発生していない。 |
事例2.古いシステムから最新のWMSにリプレイス |
|
【企業概要】
業種:倉庫業 【WMS導入の背景】 20年以上前に開発した在庫管理システムを使い、ほとんどの作業を紙ベースで行っていた(入荷予定情報はFAXで来たものを手入力・ロケーション変更は手書きなど)。導入当初は十分に機能していたが、業務拡大に伴い、作業時間がかかりすぎるなどの支障が出てくるようになった。作業効率の向上・従業員の負担軽減を目指し、WMSへのリプレイスを決定。 【WMS導入の効果】 手作業からハンディターミナルへの切り替えで作業時間が大幅に短縮され、労働時間は月400時間の削減に成功。また、専属の事務員でしかできなかった業務が未経験者でも対応できるようになり雇用の幅が広がったことなども関係し、月間60万円の人件費削減に成功。 |
事例3.WMSを導入しアナログな倉庫管理を脱却 |
|
【企業概要】
業種:小売業 【WMS導入の背景】 アナログな出荷作業による誤配送・新人スタッフとベテランスタッフで作業スピードに差がありすぎるなどの課題を抱えていた。ミスの削減・属人化の解消を目的に、WMSの導入を決定。 【WMS導入の効果】 ミスの削減・属人化の解消の効果もあったが、それ以上に、担当者も導入当初は予想していなかった「在庫管理の精度向上」という効果が得られた。WMS導入により、リアルタイムの在庫確認・売れ行きの分析・週1回の棚卸しが可能になり、過剰在庫を解消。倉庫内の在庫の量は半分に削減された。さらにフリーロケーションでの保管で無駄なスペースを圧縮したことで、4分の1の省スペース化に成功。 |
このように、WMSを導入したことで、現場の状況が改善された事例は数多くあります。
ただし、いずれの成功事例も
・WMSを導入する目的が明確だった
・自社に合った製品を選定できた
という点が共通しており、WMS導入後のイメージの想定や製品選びはやはり慎重に行うべきだと言えるでしょう。
6.WMSの導入に迷ったら、Rally Growth株式会社の「物流ITコンサルタント」にご相談ください
自社の倉庫管理に問題を抱えていて、
「WMSを導入したいが、導入するメリットが本当にあるのかわからない」
「自社にマッチする製品がどれかわからない」
といったお悩みをお持ちであれば、物流ITコンサルティングサービスを手掛ける「Rally Growth」にご相談ください。
Rally Growthとは? | |||
2021年に創立した、ミドルマーケットを中心としたDX化/新規事業構築支援を行う、ビジネスコンサルティングファームです。
代表の園田を中心に物流業界に知見のあるメンバーが集まっており、主に物流DXに関連する案件を中心に、複数の企業を支援しています。 |
|||
Rally Growthの強み | |||
①多数のWMS導入支援実績
Rally Growthでは、これまで多数の企業にWMS導入支援を行ってきました。 導入のハードルが比較的低いクラウド型はもちろん、オンプレミス型でのカスタマイズや、一から開発するフルスクラッチのシステム構築支援を行った事例もあります。 貴社にとって本当に必要な製品はどれか、選定・提案させていただきます。 |
|||
②豊富な知識に基づいた広い視点での企画・提案ができる
これまで物流の改善企画を数多く支援してきた経験から、 ・一般的な物流の仕組み など、物流業界の幅広い知識を持っているのは、Rally Growthの大きな強みです。 「課題が多岐にわたっていて、何から手をつけて良いかわからない」という場合でも、広い視点での企画・提案ができます。 |
|||
WMSの選定を含む、お客様の支援事例 | |||
【プロジェクト概要】 ・業態:製造小売 ・取扱製品:アパレル ・従業員数:約35,000人 ・導入目的:基幹システム・マテハン・WMSを連携させ、超省人化を実現させる 【プロジェクト背景】 6階建ての延床面積約11万㎡という巨大な専用物流倉庫を建設した同社は、マテリアルハンドリングメーカーと手を組み、RFID(無線自動識別)や自動倉庫、自動搬送機などを取り入れたプロジェクトを発足しました。 【支援内容】 弊社も当プロジェクトに参画し、主に以下3つの支援をさせていただきました。 ・新倉庫の構想策定 ・マテハンの選定 ・WMSの選定 最適なベンダーを探すべく、ベンダー選定に先立って多種多様なマテハンを活用したオペレーションの設計を行っていましたが、既存のクラウド製品ではマテハンとの連携はもちろん、同社の基幹システムとの連携も難しかったため、オンプレミス型かつフルスクラッチでのシステム構築に踏み切りました。結果として大規模な物流倉庫の立ち上げに成功し、今では日本最大級の省人化倉庫として日々稼働しています。 >>Rally Growthの支援事例をさらに詳しく見る |
WMSの導入にはコストがかかり、カスタマイズが必要なオンプレミス型の場合は特に、導入コストが数千万~数億円にのぼる可能性もあります。
多額の予算を割いてWMSを導入しても、機能を思うように使いこなせなければ、倉庫業務の改善に十分な効果を発揮させられません。
「WMSを導入するかどうか、まだ迷いがある」
「メリットがあると確信してから導入したい」
と考えている方こそ、まずはお気軽にお問い合わせください。
>>Rally Growth株式会社|物流ITコンサルティングお問い合わせフォーム
7.まとめ
最後に、本記事の重要ポイントをおさらいします。
▼WMSを導入するメリット・デメリット
【メリット】 ・人為的ミスを削減できる ・作業を効率化できる ・業務が標準化され属人化を解消できる ・倉庫の保管効率が上がる ・在庫状況がリアルタイムで把握できる ・さまざまな外部システム・機器と情報連携できる【デメリット】 ・導入に時間とお金がかかる ・自社に合ったWMSを選ぶのが難しい ・新たな業務が発生して手間が増えるケースもある →WMSはデメリットを踏まえてもメリットの方が大きい |
▼WMS導入のメリットを感じやすい企業・感じにくい企業の特徴
【メリットを感じやすい企業の特徴】 ・入出荷件数が多く慢性的に人手が足りない ・作業工程が多くミスが起こりやすい ・商品の種類が多く管理が煩雑になりやすい ・作業員の人数が多い・入れ替わりが激しい ・スタッフによってスキル・知識の差が激しい 【メリットを感じにくい企業の特徴】 ・入出荷件数が少ない ・マスタ作成などのデータ準備に相当な時間を要する ・スタッフのITリテラシーに著しく不安を感じている →メリットを感じにくい企業の特徴に当てはまるものが多い場合は、物流ITコンサルティングを受けてプロの意見を聞く・WMS以外の施策を探すのがお勧め |
本記事の内容でWMSのメリットが明確になり、導入の判断材料になりましたら幸いです。
- この記事を書いた人